女性のいびきに潜む最大の病気:「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
いびきの主な原因は、寝ている間に空気の通り道である上気道が狭くなることです。この気道の狭窄によって、呼吸が浅くなったり、完全に止まってしまう病気が**閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)**です。
男性と異なる!女性のSASの特徴
女性のSASは、男性のように「爆音のいびき」や「激しい無呼吸」として現れにくいという特徴があり、しばしば見逃されがちです。
特徴的な症状 | 男性と比べて現れやすいサイン |
いびきの音 | 男性ほど大きくない、または自覚がないケースが多い。 |
昼間の症状 | 強い眠気よりも、「倦怠感」「慢性的な疲労」を強く訴える傾向があります。 |
その他の症状 | 「朝の頭痛」「不眠(寝つきが悪い、途中で目が覚める)」「抑うつ気分」「夜間の頻尿」「寝汗」など、更年期障害やうつ病と間違われやすい非典型的な症状が多いです。 |
「疲労が抜けない」「気分が落ち込む」といった症状の原因が、実は夜間の酸欠状態にあった、というケースは少なくありません。
女性特有の原因:ホルモンと体の変化
女性のいびきは、女性ホルモンの分泌量に大きく影響を受けます。
1. 更年期(閉経後)のリスクの急上昇
女性ホルモンの一つであるプロゲステロンには、気道の筋肉の緊張を保ち、呼吸を促すという重要な働きがあります。このプロゲステロンが**更年期(閉経期)**に急激に減少することで、以下の問題が起こります。
気道の緩み: 喉の周りの筋肉が弛緩しやすくなり、気道が狭くなって、いびきが発生しやすくなります。
脂肪の蓄積: 代謝が低下し、内臓脂肪がつきやすくなります。首周りや喉の脂肪が増えることで、物理的に気道が圧迫されます。
実際、閉経後の女性は、閉経前と比較して睡眠時無呼吸症候群の発症率が約3倍になるというデータもあります。
2. 甲状腺機能の低下(橋本病など)との関連
甲状腺機能低下症は、特に女性に多い病気です。甲状腺ホルモンが減少すると、全身の代謝が低下するだけでなく、舌が肥大したり、喉の筋肉の働きが抑えられたりして、気道が狭くなりやすくなります。いびきや無呼吸の原因として、甲状腺の病気が隠れている可能性もあります。
3. 妊娠中のいびきも要注意
妊娠中は、体重増加、ホルモンバランスの変化、血流増加などが原因でいびきをかきやすくなります。妊娠中にSASを発症した場合、妊娠高血圧や妊娠糖尿病など、母体と赤ちゃんのリスクを高める恐れがあるため、早めの専門的なチェックが大切です。
放置は厳禁!いびきが引き起こす深刻な合併症
単なる「うるさい」だけの問題ではないのが、習慣的ないびきやSASの怖さです。睡眠中に低酸素状態が繰り返されると、体は生命の危機を感じて心臓を速く動かし、血圧を上げて酸素を送り込もうとします。これが毎晩繰り返されることで、さまざまな生活習慣病や心臓病のリスクが大幅に高まります。
心血管疾患・高血圧のリスク
習慣的にいびきをかく女性は、そうでない女性と比べて高血圧になるリスクが1.5倍以上になるとの研究結果もあります。SASを放置すると、以下のような命に関わる病気につながる可能性があります。
高血圧
不整脈
狭心症、心筋梗塞
脳卒中(脳梗塞、脳出血)
糖尿病
その他の全身疾患
酸素不足は脳にも負担をかけ、めまいや認知機能の低下にも関与すると言われています。また、内耳のリンパの流れが悪くなることでメニエール病などのめまい疾患の発症リスクを高める可能性も指摘されています。
彼女のいびきが「危険なサイン」であるチェックリスト
以下のような症状や変化に気づいたら、「いびき外来」や「耳鼻咽喉科」など、睡眠呼吸障害を専門とする医療機関への受診をおすすめします。
毎晩、習慣的にいびきをかいている(パートナーからの指摘)
睡眠中に呼吸が止まっている、または息苦しそうにしている
日中の眠気よりも強い疲労感や倦怠感が慢性的に続く
朝起きたときに頭痛や口の渇きがある
夜間に何度もトイレに起きる(頻尿)
更年期に入ってからいびきが始まった、またはひどくなった
女性のいびきは、その背景に女性ホルモンの変化や見逃されやすい病気が隠れていることが多いです。「疲労」「更年期」と自己判断せず、専門の検査を受けて正確な診断を得ることが、彼女の健康と安眠を守るための最善の対策です。